柚時雨
そのとき
俺はよく分からない感覚に
襲われた。
心臓が大音量で拍を刻み出して
紐か縄かで、ギュッと胸を
締めつけられるような感覚……
もしかして
この感覚って
“恋”なのだろうか?
ふと気がつくと
目の前に居たはずの彼女が
何故か、俺の横に居た。
でも、その理由はすぐに分かった。
彼女の手にはあの容器があって
彼女は容器いっぱいの
少し濁った雨水を捨てていた。
そして、ちょっと土が付いた部分を
彼女は小さな水溜まりでゆすぐ。
傘を肩と首の間に挟めながら
ちょこんとしゃがむ彼女は
絵のようにも見えた。