柚時雨



 そのとき

 俺はよく分からない感覚に

 襲われた。



 心臓が大音量で拍を刻み出して

 紐か縄かで、ギュッと胸を

 締めつけられるような感覚……




 もしかして

 この感覚って





 “恋”なのだろうか?






 ふと気がつくと

 目の前に居たはずの彼女が

 何故か、俺の横に居た。


 でも、その理由はすぐに分かった。



 彼女の手にはあの容器があって

 彼女は容器いっぱいの

 少し濁った雨水を捨てていた。


 そして、ちょっと土が付いた部分を

 彼女は小さな水溜まりでゆすぐ。



 傘を肩と首の間に挟めながら

 ちょこんとしゃがむ彼女は

 絵のようにも見えた。




< 18 / 40 >

この作品をシェア

pagetop