柚時雨
厚い雲におおわれて
すっきりしない朝。
「奏汰朗、傘忘れないでよ」
「今日は降らねぇよ、多分」
バタバタと忙しく動く母に
全国放送の天気予報を見ながら
俺は、そう言った。
「寝言は寝て言いなさい!」
母は、携帯電話やら何やらを
通勤用鞄に入れながら怒った。
テレビに映る日本地図が
全国雨マークで埋まっていたからだ。
「もうお母さん行くから。
皿洗いして行ってちょうだいね」
「んー」
返事をしながら、背伸びする。
いつの間にか
窓から見える母の車が消えていた。