柚時雨




 「ゆい子?」




 俺がそう聞き返すと

 体ごと俺に向けた彼女…ゆい子は

 小さく頷いた。



 「俺は…奏汰朗」



 自然と綻んだ笑顔に乗せて

 俺も名前を告げた。




 「奏汰朗……?」


 俺のように聞き返したゆい子は

 また、小さな声だった。

 だけど、俺にはちゃんと聞こえる。

 傘に当たる雨粒が

 うるさくも感じなかった。




 「奏汰朗……。いい名前だね」


 言葉をぽつりと呟いたゆい子は

 やわらかい笑顔を、俺に向けた。




 2人の傘や、雑草が生えた地面。

 小さなブランコ

 錆びついた小さな鉄棒。



 それらに降り注ぐ雨より

 俺の心拍は速い。


 それらに当たる雨音よりも

 俺の鼓動は大きく高鳴る。




< 21 / 40 >

この作品をシェア

pagetop