柚時雨
「ゆい子?」
俺がそう聞き返すと
体ごと俺に向けた彼女…ゆい子は
小さく頷いた。
「俺は…奏汰朗」
自然と綻んだ笑顔に乗せて
俺も名前を告げた。
「奏汰朗……?」
俺のように聞き返したゆい子は
また、小さな声だった。
だけど、俺にはちゃんと聞こえる。
傘に当たる雨粒が
うるさくも感じなかった。
「奏汰朗……。いい名前だね」
言葉をぽつりと呟いたゆい子は
やわらかい笑顔を、俺に向けた。
2人の傘や、雑草が生えた地面。
小さなブランコ
錆びついた小さな鉄棒。
それらに降り注ぐ雨より
俺の心拍は速い。
それらに当たる雨音よりも
俺の鼓動は大きく高鳴る。