したたかな彼女
「おまたせしました」
ケーキを持ってきたのは芳樹だった。
志保は思わず「うふふふ」と声をもらす。
そして「ありがとう」と言った。
まりえも「どうも」と言う。
「ごゆっくり」
そう、芳樹はテレくさそうに言い、
軽くえしゃくをするとキッチンに戻っていった。
志保とまりえは顔を見合わせクスクス笑う。
「志保ちゃんが来てたの気付いてたんだね。 わざわざ持ってくるなんてぇ!」
「ふふふふふ」
志保は恥ずかしそうに、だけど満面の笑みでうなづいた。
「さ、食べよっか!」
「待って! 写真とっていい?」
まりえはすぐに写真をとりたがる。
花柄の刺繍がほどこされたカラフルな手提げかばんをあさって、携帯電話を取り出した。
「これもね」
頼んだカフェオレとケーキを並べ、すぐに携帯電話のシャッターを押した。
あまり彼女にはアングルのこだわりなどない。 ただ、その日その日の想い出を残す事が彼女の趣味なのだ。
「よし完璧★ ねぇ、志保ちゃんのパイも少しちょうだい!」
「もちろん! そっちもね」
「おう」
一緒に頼んだドリンクは志保がホットコーヒー。まりえがカフェオレ。
二人とも砂糖は入れない。
ここのスウィーツは甘さ控えめだけど、苦味のあるドリンクがさらにケーキの美味しさを引き立たせてくれる。
土台がさくさくのパイになっている、酸味のきいたベリーチーズケーキと、やたらと濃厚なチョコスフレ。
お互いのケーキを分け合い、「おいしい」と足をジタバタさせて喜んだ。