カワイイ子猫のつくり方
予想していた通り階段へと足を向ける武瑠に、実琴はベンチ下からそっと出て行くタイミングを見計らっていた。

上の階へと向かう途中、踊り場を過ぎてその姿が見えなくなると同時に、すぐさまロケットスタートで駆け出す。

駆けながら後方をチラリと振り返ったが、特にこちらに視線を向けている者はいないようだ。


(大丈夫。誰も気付いてない!)


だが、階段を駆け上がり始めると階段の構造上、首に付けた鈴の音が思いのほか響き渡ってしまい、実琴は焦った。

とりあえず踊り場の角まで行って立ち止まり、そっと上を見上げると案の定、音が気になったのか何気なくこちらを振り返っている武瑠の姿があった。

だが、特に足を止めることなく三階を通過して再び階段を上がって行く。

そうして、武瑠は四階のフロアで左に曲がって行った。


(病室は四階ってことか…)


階段の隅で周囲を伺いながら、とりあえず武瑠の後ろ姿をそのまま見送る。


本当なら部屋の場所まで確認したかった。

でも、今ここで出て行くことは難しそうだ。

長く続く廊下は見通しの良い広々とした造りで、だが患者が徒歩や車椅子で移動しても邪魔にならぬよう、当然のことながら余計な障害物は何もない。

つまり身を隠す場所がないのだ。


(でも、何だろう…。感じる…。この近くに自分がいるって分かる気がする…)

きっと、心と身体がどこかで繋がっているのかも知れない。
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