カワイイ子猫のつくり方
流れてゆく雲を眺めていたら、不意に朝霧のことが頭をよぎった。


(朝霧…怒ってるかな?流石にもう、いないことに気付いたよね…)

眠っている間に、こっそりと出て来てしまったことに少なからず罪悪感を感じていた。

でも、場所も知らないこの病院へ来る為には、今朝のことはこの上ないチャンスだったのだ。

(心配…してるかな?朝霧『猫ちゃん』のこと、好きだからなぁ)


そう。

あの優しい顔は、あくまで子猫の『ミコ』に向けられたものだ。

自分に向けられたものではない。

(そんなの分かってる…。でも…)




昨夜…。


「何か、迷ってるのか?お前…」


こちらの意図を伺うような、真っ直ぐな瞳。

戸惑っている自分の迷いを、まるで全て見透かすように。


「ほら…その顔。そんな不安そうな顔するな」


優しく慰めてくれる手。

全てを受け止めて包み込んでくれるような温かな腕の中。


「そんなに不安なら、俺の傍にいればいい」


泣きそうになった。

切なさで胸が一杯になった。


学校では見ることの出来ない、誰もが知り得ない朝霧の一面。


(そこに惹かれちゃいけない…)


意図的ではないとはいえ、自分は朝霧を(あざむ)いているのだ。

朝霧が人に見せないその部分を自分は覗き見てしまっている。

それだけでも罪なのに、この状況下で僅かにでも傍にいたいと思ってしまった自分は、何て図々しくて愚かなのだろう。
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