カワイイ子猫のつくり方
(…こんなの初めから悲恋決定じゃない)


報われない恋。

始まることさえなく、終わる恋。


それこそ、私がミコであることがばれたりでもしたら、朝霧はきっと私を軽蔑して許さないだろう。

『覗き見のような真似をして。…最低だな、お前』

そんな(ののし)る声が聞こえてくるようだ。


朝霧の冷たい瞳を想像して実琴は再び小さく溜息を吐くと、見上げていた視線を自分の足元へと落とした。



その時だった。

実琴は自身の意識に囚われていて、屋上に再び人がやってきたことに気付くのが遅れてしまった。

扉の手前、踏み込まれた足音に驚き振り返る。



『あっ…』







朝霧は四階病棟の廊下にいた。

目前に貼られているプレートの部屋番号は408号室。

四人部屋なのか、四名の女性の名前がそこには記されている。

その中の一つに『辻原実琴』の名が入っていた。


実琴が入院している病室を昨夜事前に聞いていた朝霧は、とりあえずミコが目指して来そうな場所として真っ先にここを選んだのだが。

(流石にここまでは入って来れないか…)

その小さな姿は勿論のこと、周囲に変わった様子はどこにも見られない。


朝霧はその病室の前に立ち止まっていたが、身を(ひるがえ)すと再び元来た廊下を歩き出した。

(辻原の様子は気にならなくはないが…)

流石に意識の戻らない今は見舞いも何もない。身内に失礼というものだ。
< 128 / 220 >

この作品をシェア

pagetop