カワイイ子猫のつくり方
まさか、屋上へやって来たのが朝霧だとは思わなかった。


(ヤバイ!見つかったッ!)

本気で、そう思った。

これで病院の外へ追い出されてしまう、と瞬間的に頭の隅で思った。

冷静に考えればここは屋上であり、一応外なのだからそこまで大騒ぎにはならないのかも知れないけれど。

でも、まさか朝霧が来るなんて。


「お前…。どれだけ心配したと思ってるんだ?」


少し怒っているような朝霧の顔。

でも、声は優しい。

(もしかして『ミコ』を探しに、わざわざ来てくれたの?)

もしかしたら、父親から連絡を受けたのかも知れない。


『朝霧…』


迷惑を掛けてしまうこと位、分かっていた。

それでも、私は自分が元に戻ることを優先したのだ。


今回上手くいけば、私は自身の身体を取り戻し、『ミコ』としての朝霧との関係は全て切り捨てて忘れるつもりでいた。

勿論それでも朝霧は、そのことに気付くこともなく、子猫ちゃんである『ミコ』を今までと変わらず可愛がってくれるのだろうけど。

でも…。

本当は寂しさで一杯だった。

飼い主と猫としてでも、少なからず感じた絆みたいなものが、ずっと私の後ろ髪を引いていたから。 

でも、これは私のエゴ以外の何ものでもない。

有り得ない筈の出来事をリセットして、ただ元に戻るだけなのだ。


…なのに。

(私、駄目だ…)

朝霧が来てくれて、こんなに嬉しいなんて。
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