カワイイ子猫のつくり方
暫く自転車を走らせると、前方に病院の明かりが見えてきた。

病院の建物自体は温かみのある黄色い明かりがガラス越しに数多く灯っていて、まるでホテルやマンションのように綺麗だったが、敷地内に入っても周囲に人は見当たらず、植えられた多くの木々が僅かな風に揺られているだけで、駐車場もガランとしていて何処か寂しい。

朝霧は薄暗い中、昼間と同様駐車場の奥にある駐輪場へと向かった。

駐輪場へ行ってみても、自転車がまばらに並んでいるだけで他に人の気配はない。


「着いたぞ」

朝霧は実琴をポケットに入れたまま自転車を降りると鍵を掛けた。

「みゃあ」

返って来た返事に小さく頷くと、ゆっくりと関係者用の通用口へと向かう。


子猫の傍へ行く…と簡単には言っても、時刻は既に午後八時を回っており、普通に考えて病室へ向かうには遅い時刻だ。

だが、幸いにもこの病院は特に面会時間を決められてはいない。

夜間の面会をするにあたり、相部屋の場合は他の同室者に迷惑が掛かるので面会室等への移動は当然のことながら必要になるが、入る際に記名などをきちんとすれば、それ以外はわりと自由なのである。

だが、父親の話では辻原は昼間の騒ぎにより個室へ移ったと聞く。きっと看護師の目の届き易い部屋に移動させられたに違いない。

そんな状況にある患者の元へ、ただのクラスメイトがこんな時間に見舞いに来るのは流石に違和感があるだろう。
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