カワイイ子猫のつくり方
その為、あまり気は進まないのだが父親の名を借りることにした。


父に相談したい事がある旨を電話で伝えると。

『伊織くんが僕にわざわざ会いに来るなんて珍しいよね』

そう言いながらも父は特に詮索することもなく快諾してくれた。

『夜の八時以降なら会議も終わってるだろうし少し時間があるから、その時間で良ければおいで。受付には伊織くんが来ることを連絡しておくから通用口の方から入って来るんだよ』

そこまでしっかり手回ししてくれた父親に対して、若干の罪悪感は感じながらも。

(実際、辻原のことを相談してみるという選択肢もなくはないしな)

名前だけ借りて院内に入り、父との約束を放置するよりは、正直に話してみるのもいいのかも知れない。


(ま、親父が信じる信じないは別として、だがな…)


通用口の手前まで行った所で、朝霧はポケットから顔を出している子猫の頭を軽く指で押し込んだ。

「暫く大人しく入ってろ。ここで見つかったら元も子もないからな」





朝霧は、関係者用の通用口から病院内に入ると慣れた様子でエレベーターホールへと向かった。

(スゴイ、ある意味顔パスだ…)

胸ポケットの中でこっそり外の様子を伺っていた実琴は、受付の守衛らしき人に挨拶だけでスルーした朝霧に改めて感心していた。

(まぁ普通に考えて、院長ご子息…。次期院長候補にあたるんだもんね)

朝霧父としては、朝霧本人の意向に任せると言っていたけど。
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