カワイイ子猫のつくり方
実際に耳に聞こえているのは「ニャーニャー」という猫の鳴き声なのに、その声が自分の頭の中で言葉として理解出来ているという、何とも不思議な感覚だった。


『早く!この穴に逃げ込むんだっ』

唸っている犬の様子を伺いながらも、その猫はこちらに声を掛けて来る。

『むっ…無理だよっ!そんなとこまで行けないよっ』

犬の方が手前にいるのだ。穴へ飛び込む前に襲い掛かられてしまうのがオチだ。

だが、その猫はまた声を上げた。

『大丈夫っ!フェイントだよっフェイント!フェイントを使うんだっ』

『ふぇ…?フェイントッ?』


猫も『フェイント』なんて言葉使うんだ?とか、思わずどうでも良いツッコミが頭をよぎる。

でも、確かにその穴へ飛び込む以外に他に逃げ道はない気がした。

もしも上手く襲い掛かってくる犬をかわしたとしても、ただ走って逃げるのでは、すぐに追い付かれてしまうだろう。

リーチが違い過ぎるのだ。あまりに無謀すぎる。


その時、自分の斜め横に電柱があるのが目に入った。

(フェイント…。そうか。この身体の小ささを逆に利用すれば…。よーしっ!)

実琴は覚悟を決めると、ロケットスタートで電柱へ向かって駆け出した。

そして、すぐさま電柱と壁との隙間へと入り込む。

だが、犬もその突然の動きに反応するように、こちらへ勢いよく飛び掛かって来た。
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