幸姫

 【side唄花】


 「これが真実だ」

 全ての話が終わり、終夜さんは一息ついた


 嫌な過去まで思い出してしまったのか、その顔はキツそうだった


 「私……記憶消されちゃってたんだね」

 「あぁ」


 「それって戻らないの?」


 もし、戻るんなら戻してほしい

 そしたら、お父さんの事も沢山思い出せるはずだ


 だけど

 「……それは無理だな。完璧に消したから戻す事はできない」


 無理だと言われてしまった


 つまり、昔の事はこれ以上思い出せないと言うことだ


 「そっか……」

  私がシュン…としていると、終夜さんが何かを手渡してきた


 見てみると


 「これ……私が好きなやつ」

 施設にいた頃、好き好んで食べていたイチゴ味のアイスだった

 「食べていいの??」

 聞くと終夜さんは『あぁ』と頷いた

 味も何一つ変わらない、思い出のアイス


 私は人間界で生きていた記憶しか、残っていないんだと再確認させられる

 「……記憶消えてもそれは好きなんだな」

 「え?」

 ふと、ボソボソと言うような声が聞こえたが『何でもない』と誤魔化されてしまった


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