例えば星をつかめるとして
もう一度、息を吐く。とりあえず、今の会話は忘れよう。頭痛がするような気がする。
私は、叶多の方を振り返った。真理の乱入で中断した話を進めないと。
「……それで? どこなの? 欠片があるところ、って」
* *
「この近くだよ」
前を歩く叶多の声が響く。足を進めるごとに、水の音が大きくなっていく。
最寄りの駅を降りて、しばらく。今日は空を自転車でではなく、地面を歩いている。また星見峠の方に行くのかと思いきや、途中で道を曲がり──この先にあるのは、川だ。
「こっちには、澄佳もあんまり来ない?」
不意に振り帰った叶多にさらりと名前を呼ばれて、また、息が詰まった。
──あの星を見た日以来、叶多は二人きりになると、私のことを名前で呼ぶ。
「……そんなには来ないかな。通らないし、子供の頃はあんまり川には近付くなって言われてたし」
動揺を悟られないよう、私は努めて平静な声で答える。私のもつ知識の一部をもつ叶多はある程度予測出来ていたようで、うんうんと頷いている。