例えば星をつかめるとして

「この辺りから気配がするんだけど、多分川の底だろうなって」

路面から川べりに降りながら、叶多はそう言った。それに続きながら、さすがに私は口を開いた。

「川の底って……私制服なんだけど」

見た感じ、流れは思ったよりも速そうだ。深さもそれなりにあるように見えるし、着替えもない状況で入っていくのは気が引けた。

すると、早くも靴下を脱ぎ終わってズボンの裾をまくりながら、叶多はけろりとした表情で言う。

「じゃあ、僕が入るから、君はそこで見ていて。もし上がれなくなったら引っ張りあげてね」

「え」

私の返事も聞かず、叶多はざぶざぶと川に入っていく。

大丈夫だろうか。一抹の不安を抱えながら、私はその後ろ姿を見守る。怯んだ様子もないし、足取りもしっかりしているし、大丈夫だとは思うんだけど。

──あれ? でも、引っ張り上げるって、ロープも浮き輪もない状況でどうやってやるんだろうか?

そんな疑問符がふと浮かび、消えかけていた不安がむくりと鎌首をもたげる。ちょうどそのタイミングで、星野が大きくバランスを崩した。

「え?」

「うわ、」

私の声と、星野の小さな呻き声が重なる。次の瞬間、ばっちゃーん、と立ちこめる大きな水飛沫。
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