例えば星をつかめるとして

「……ちょ、ちょっと叶多!? 大丈夫!?」

思わずぎりぎりまで走りよって、大声で叫んだ。

大丈夫だろうか。ちょうど川の真ん中辺りだったけれど。波立つ水面の中心、星野のシルエットは見えなかった。

大丈夫だろうか。……なかなか、顔を出さないけれど。

……大丈夫、じゃ、ないのだろうか?

「叶多!? ねえ、大丈夫!?」

途端に不安が抑えきれなくなって、私は大声で叫んだ。それからもどかしい思いでローファーとハイソックスを脱ぎ捨てて、裸足で川に飛び込む。

「星野叶多! あがってきて!」

ざぶざぶ、と、勢いよく波飛沫が立つ。見ていたよりも流れが急で、足元をすくわれかける。叶多は、これにのまれてしまったのではないだろうか。だってまだ、人間の体に不慣れな筈だし、水泳の授業だってなかったし。

流されては、いないよね? そうなってしまっては、きっと追いつけない。不安を感じながらもう一度水面を見渡す。

と、むくりと黒い影が現れる。次の瞬間、それはざぱりと大きく水滴を散らして、飛び出た。

「叶多!」

私は叫んだ。間違いない、叶多だ。溺れてなかった。濡れてはりついた黒髪の隙間から、叶多の深い藍色の瞳が見えた時、ようやくほっとした。
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