例えば星をつかめるとして
* *
夏の陽射しは強い。土手に座って少し待っていたら、濡れた服はあらかた乾いてしまった。
「それにしても、叶多乾くの速すぎじゃない?」
私よりも早く髪やワイシャツが元通りになっていた叶多に訊ねると、彼はにっこりと笑って答える。
「僕の体は、恒常性が人間より強く出来ているから、かな。つまり、何かしらが起こってもすぐに元に戻るようになってるんだ。例えば水で濡れたり、髪を切ったり、怪我をしても」
「ふーん……」
恒常性、というのは環境が変わってもその状態を保ち続けることを言う筈だ。人間だと外部の気温によって体温が変化しないことなどがそれだったけど、濡れたり髪を切ったりしてもすぐ元に戻るなんてことはない。これは、叶多ならでは、なのだろう。
「化け物みたいで気持ち悪い?」
微笑んだまま、叶多はそう訊ねてくる。私は首を横に振った。
「まさか。こんなんで気持ち悪がってたらとっくに叶多から逃げ出してる」
「ははは、確かに。澄佳はすごいなあ」
叶多はそう言って、立ち上がる。手には、先ほど取ってきた鈍色の欠片。
「……もともと人間でも何でもない僕が、こんなことを言うのはおかしいけど。あと、どれくらい人間としてここにいられるんだろうなあ」