例えば星をつかめるとして

「……澄佳、もう少し、付き合ってくれない? ちょっと、散歩がしたくて」

黙り込んだ私に、叶多はそっと話しかける。目の前に、手のひらがそっと差し出された。

顔を上げる。叶多の優しい眼差しは、ちゃんとそこにある。

私はそれを、迷わずに掴んだ。





「夏だねえ。蝉が鳴いてるね」

「……そうだね」

川沿いをだらだらと歩きながら、あんまり中身のない会話を続ける。

陽射しはあるけれど、水辺だからか風は涼やかだ。先ほど立ち上がる時に差し出された手を握ったまま、私たちは歩き続けていた。

「そう言えば、期末試験も終わったし、もう夏休みだよね?」

「……まあ、そうだけど」

叶多の言葉通り、明日の修業式を終えたら夏休みが待っている。けれど、その言葉ほどいいものでも無いので、私は曖昧に言葉を濁した。

「夏休みにはなってるけど、私は夏期講習も申し込んでるし変わらず学校行くことになるかな。受験生には夏休みなんて無い、って言うでしょ」

「ええっ!?」

叶多は頓狂な声を出す。そんなに、驚くべきことだろうか。
< 109 / 211 >

この作品をシェア

pagetop