例えば星をつかめるとして

「……」

私は何も言わない。

言えなかった。何を言えばいいのか、自分が今何を思っているのか、わからなかった。

視線を、伏せる。叶多の瞳を、それ以上見続ける事は出来なかった。

「……イメージ、しづらいかな。それじゃあ、見に行ってみようか」

「え?」

視線も、言葉も返さない私を、それでも辛抱強く待ってくれた叶多が、唐突にそんな提案をする。

「いくよ」

私の反応を是と受け取ったのか、それとも答えを聞くつもりもなかったのか、叶多は短くそう告げた。

不意に、繋いだままの手のひらを強く握られる。あんなにうるさく響いていた蝉の声が、遮られる。その刹那、真下から強い風が吹いた、ような気がした。

強く、目を瞑った。



「……?」

そうして、しばらくして。

不自然なほどの静けさに、恐る恐る目を開ける。すると、飛び込んできたのは。

「星……?」

そう呟いて、けれどすぐにはっとする。これは、星ではない。

暗闇に瞬く、小さいけれど明るい光は確かに星のようではある。けれど、星はこんなふうに明滅したり、動き回ったりはしない。

これは。

「蛍……!」

< 113 / 211 >

この作品をシェア

pagetop