例えば星をつかめるとして
私は叫んだ。目の前いっぱいに、ううん、横にも後ろにも上にも下にも、蛍が飛び回っていた。
緑とも黄色とも表現しにくい、蛍の色。けれど、視界をいっぱいに埋め尽くす、蠱惑的な色。
そのうちの一匹が、ふわりとこちらに寄ってくる。思わず手を伸ばして──けれどその蛍は、するりと私をすり抜けた。
いや、これは、私が、蛍をすり抜けた、のだろうか。
「……これは、蛍がいた頃の、この川の景色だよ」
隣から、叶多の声が響く。ようやくはっと思い至った。これは、叶多の力で見せられている、川の昔の姿なのだ。
「綺麗……」
伸ばした手を引っ込めて、私は呟いた。幻影とは言え、この目で蛍を見る事は、初めてだった。
じっと、見入る。蛍が、昔この川にいたのだ。とても、不思議な気分だった。
「……そろそろ、次の景色を見せても良いかな?」
遠慮がちに、叶多が訊ねてくる。私は、頷いた。
また、手を強く握られた。
「……これ、は……」
目を開いて、思わず零れ出た言葉は、そんなものだった。
今度見えたもの、それは、蛍でも先ほど見た景色でもなかった。
──灰色に濁った、汚い、流れの姿だった。