例えば星をつかめるとして
「今から40年くらい前、だって。川、真っ黒だよね。魚も住めなかった、って聞いてるけど」
叶多の言葉を聞きながら、私は何も言えず、変わり果てた川の姿を見つめた。
──先ほど私が見たものと同じところだとは思えないほどに、荒れ果てた、川だ。
色だけでなく、水質も泥のようになっていて、流れているというよりは淀んでいた。景色を見ているだけなのに、感じるはずもない臭いまでもが漂ってくる気がした。
今はもうないのだけれど、この辺りには昔なにかの工場があったと言う。排水、と言っていたけど、それなのだろうか。昔は川に直接流すことを禁止する制度もなかったと言うし。
幼い頃この川で遊んだ記憶がないけれど、どれくらい前までこのような姿だったのだろう。確かにこの川だと、落ちたら目視できそうに無いから、事故が起きるのも頷けた。
私は言葉を失くしたまま、それを呆然と見つめる。当然あの蛍たちはいないだろう。人間が、このようにして、奪ったのだ。
「……見ていて、あんまり気分が良いものではないよね。戻ろうか」
少しして、叶多が言った。また、手をぎゅっと握られて、景色が暗転した。