例えば星をつかめるとして

「はい、戻ってきたよ」

不思議な浮遊感から解放されると同時、叶多の声が聞こえて、私は目を開けた。

目の前に広がるのは、先ほどそばを歩いていた"現在"の川の姿。水は透明で、濁っても淀んでもいなくて、心地よい水音を響かせている。

「綺麗、だね。この川」

叶多も横で私と同じように川を見つめていた。さっきあのようなものを見たばかりだからか、その言葉は奇妙な重さを伴って私の胸に響く。

「……うん。綺麗。とっても」

だから、私は頷いた。目の前に広がる川の姿は、先ほど見たものと同じとは到底思えないほど美しいと、素直に認めた。

「『奇跡』みたいだ、って、僕は思ったよ」

叶多が、言う。

その大仰な言葉が、これまで私はどうしても、好きにはなれなかった。共感出来なかった。

出来なかった、のだけれど。

「……」

あんなに汚かった川が、ここまで回復したのは、確かに奇跡のような出来事だ、と思えた。私なら、あんな状態の川を戻そうとするのは無理だ、と、諦めてしまうと思う。けれど、実際に戻っているのだ。まるで"奇跡"のように。

「まだ、蛍は戻ってない。蛍プロジェクトの、本当の意味での"奇跡"は、まだ起こっていない。澄佳は、"奇跡"は起こらないと、そう思う?」

視線を向けられて、たじろいだ。
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