例えば星をつかめるとして
その声が誰のものかは、わかる。私と帰るつもりでこの席まで来た、というのもわかる。けれど今は、そうしてほしくなかった、と思った。
「どうしたの?」
にこり、いつものように涼やかに笑って、彼は私に問いかける。
私は何も答えないで、立ち上がった。
「……帰ろう」
そう言って、返事も聞かずに歩き出す。後ろに気配があるから、きっと着いてきているのだと思う。
その状態のまま、教室を出て、階段を降りて、エントランスにまでさしかかる。
「ねえ、道、こっちで合ってたっけ?」
後ろから、なんとも脳天気な声が聞こえる。
やっぱり、答える気にはなれず、そのまますたすたと、朝来た道を進む。叶多は、それに着いてくる。
夕方は、朝よりも人通りが多かった。空はもう暗いのに、ビルの灯りが不自然に照らす道は、明るい。
車の吐き出す煙が、私の真横を通る。気分が悪くなりそうな臭いを、気持ち悪いと思った。
今朝の会話を思い出す。ここは、いやになるくらいに『都会』だと感じた。建物も、道も、空気も、人も──そして、私も、その一部になったような。
「……どうしたの?」
前を歩く私が突然足を止めたことで、叶多が不思議そうな声を出した。やめてほしいと、思った。私に声なんて、かけないで。