例えば星をつかめるとして

「……ごめん、用事、あるから、帰ってて」

なんとかそれだけ絞り出して、私は踵を返す。え、と叶多の声が後方からして、けれどそれから逃げ出すように、私は駆け出した。



* *



どのくらい、走っていたのだろうか。

もともと運動不足な私だから、すぐに息は切れた。へとへとになりながら、それでも足を止めたくなくて、何かから逃げるかのように、走り続けた。

知らないうちに、見たこともない通りに出ていた。最初にいたところよりも遥かに栄えていて、派手なネオンが光っている。

知らない通りに、私はひとりきりで。

多分ここなら誰も、私のことなんて気にもしないし、目も止めない。そう思うとすごく、居心地が良かった。

一人に、なりたかった。

とっくに走ることを辞めた足は、それでも動くことをやめずに、とぼとぼ、とぼとぼと歩き続ける。

生温い夜風が頬に当たる。叶多と空や星見峠で受けたものとは全く違う種類のそれに、少しずつ思考が冷やされていく心地がした。

──何、やってんだろう。私。

きっかけは、模試が上手くいかなくて、心がくさくさしていたこと、だろう。

難しい、とは、わかっていた。けれど、私なりに勉強していたのに、全然歯が立たなかった。それが、ショックだった。
< 124 / 211 >

この作品をシェア

pagetop