例えば星をつかめるとして

自分勝手に、叶多を置いてきてしまった。真理にも、冷たく接してしまった。逃げ出して、しまった。……何から?

さっき、駆け出した時。私は、ただひたすらに何かから逃げたかった。何かもわからないけれど、とにかく、逃げたかったのだ。

何から、だろう。多分きっと、他の誰でもない、『私』から。

叶多も、真理も、まっすぐ『私』を見てくる。多分それが、耐えられなかったんだと思う。ここにいれば、私は誰でもなくなることが出来る。だからすごく、居心地が良いんだ。

嗚呼、そうだ。私は、『私』が、嫌で仕方が無いんだ。いつのまにか古くなって、大きなものの部品のように、意思もなくただ無意味に勉強をするだけの私が、嫌で仕方ないんだ。無意味に勉強して、それなのに結果も残せない私なんて。

そのくせ、大きな都会の隅に埋もれることで安心するなんて、なんて、皮肉なことなんだろう。

ふと目に付いた、小さな通りに入る。誰も、いなかった。ここなら本当に、『一人』になれるだろうか。

ううん、さっきからずっと私は、『一人』だ。人ごみの中にいても、雑踏を歩いていても、何をしていても、逃げ出したあの瞬間から、私は『一人』だった。

また、息が苦しくなる感覚。それは、都会だからだろうか。それとも、何なのだろうか。わからない、わからないけど、苦しくて、私はその場にしゃがみこんだ。
< 125 / 211 >

この作品をシェア

pagetop