例えば星をつかめるとして
彼は微笑んで、窓を閉めようとする。何か言いたくなって、私はつい、口を開いた。
「また、明日ね」
窓に手をかけていた叶多はびっくりした顔をして、それからゆっくり、微笑んだ。
「うん。……おやすみ、澄佳。いい夢を」
そして、静かに窓が閉められる。すぐに、自分の家の方へと飛んでいった。
後ろ姿を見送って、ベッドに腰掛けると、温かい眠気が襲ってきた。どうやら疲れているらしい。早く着替えて、叶多の言う通り、寝てしまおう。
欠伸をする。ぼんやりする頭で、別れ際のやりとりを思い出す。笑っているのに、少し泣きそうにも見えた、あの瞳が気になった。
あの「おやすみ」が、「さよなら」に聞こえたような気がして、胸騒ぎを覚えて、窓の外を見る。さっき、叶多と見た星空が、変わらずに広がっていた。きっと、気のせいだろうと思った。
その次の日の、ことだった。
「おはよう叶多、……あれ?」
ガラリと、空き教室の扉を開く。
そこにいるだろうと思っていた叶多の姿は、なかった。