例えば星をつかめるとして
わからない、わからないだけに、こわかった。知らないうちに叶多の記憶が消えてしまうような気がして、怖かった。昨日まで当たり前のように思い出せたことを、今、思い出そうとしなければ思い出せないことが、恐ろしくて仕方がなかった。
思い出せる。今はまだ、ちゃんと思い出せる。いつか、叶多という人がいたことすらも忘れてしまうのだろうか。嫌だ、と思った。
一週間経った。毎日、叶多のことを思い出すことが日課になった。思い出せる限りを、ノートに書き付けることもしたけれど、書いても書いても、端から消えてしまっていった。叶多という存在を残すことが、どうしても出来なかった。だから私は、毎日必死に、叶多を覚えているかを確認していた。
一日目、瞳の色が咄嗟に思い出せなかった。
二日目、どんな声をしていたかを、思い出せなくなった。少ししたら、蘇ってほっとした。
三日目、叶多の名字を思い出せなくなった。出席番号がどのくらいだったか、わからなかった。落ち着いたら、ロマンチックな名前と真理が言っていたことを思い出して、星野叶多と浮かんできた。