例えば星をつかめるとして

それは、記憶も同じだったんだ。君からもらった知識とか、クラスの人の名前とかが、少しずつ思い出せなくなっていった。向こうも同じみたいで、段々、君や速水さん以外の人から声をかけられなくなっていってね。

多分、あのまま地球にい続けたら、それはもっと進んだんだと思う。もしかしたら、君のことも忘れてしまったかもしれない。だから、足掻くことをやめて地球を出ようと決めたんだ。

何も言わないまま、帰ってしまってごめん。何度も、言おうと迷ったんだ。でも、言わなかったのは僕の勝手だよ。僕以外に送り届ける人がいないのに、君を、夜に外へ連れ出したくなかったんだ。

そんな理由、って、君は怒るかな。怒るかもなあ。でも大変なことだよ? 僕の出発、真夜中だから。僕はあと宇宙を進むだけだけど、君は次の日もあるわけだし、僕に関する記憶が消えて、自分が何をしていたかわからないのに寝不足なんてことになったら君が戸惑うと思ったから。

だから今、最後に、これを書いてるんだ。ねえ、字、上手くなったでしょ。君の綺麗な字がずっと心に残ってね、練習したんだ。ペンの持ち方とか、君を見て覚えたんだよ。それでもまあ、澄佳先生には及ばないんだけどさ。
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