例えば星をつかめるとして

オレンジ色の夕日はあっという間に隠れて、空の端の方に、ピンクだったり紫だったり不思議な色を残すのみ。北の方角を向くと、もう暗くなって、いくつかの星が瞬いているのが見えた。

いつか、叶多と来た時と同じような時間帯だ。もう、すぐそこまで夜が近付いている。

すうっと、大きく息を吸い込む。そして、天空の星目掛けて、叫んだ。

「星野叶多!」

全身の声を集めて、力を込めて、その人の名前を呼ぶ。なりふりなんて、構っていられない。

遠くまで、高くまで、響け。

届いて欲しい人に、この声が聴こえますように。

「……ふざけないでよ!」

思いのままに言葉を飛ばす。まずこぼれたのは、そんな文句だった。

「身に覚えのない話だとか、好き勝手書いてるけど、私が、あんたのこと忘れるわけないでしょう!?」

『何の話かわからないかな』、『不気味だと思うかもしれないけど』、何度か書かれていた、そんな言葉が、私は許せなかった。私が全部忘れた前提で書かれていることが、悲しかった。

「そんなに、薄情だとでも思ったの!? あんたのこと、すっかり忘れられるだなんて思ってたの!? どうせ忘れちゃうから、勝手に帰っても良いとでも思った!?」

大きく、息を吸う。
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