例えば星をつかめるとして
*彼方からの来訪者
「起立、礼ー」
学級委員の気だるげな号令に合わせて、クラスじゅうが一斉にのろのろと頭を下げる。
授業が終わった。私はさっさと鞄を掴むと、帰るべく腰を上げた。
「進路希望調査票、提出今日までだぞー。出てないの結構いるから出せー」
その時、教室の前方で担任が叫んだ言葉が耳に届く。
……進路希望、調査票。
思わず、足を止めた。それから、白紙のまま鞄の中に放置されているそれの存在を思い出す。
「…………っ」
黙ったまま、唇を噛み締める。
「早く出せよー」
再度の担任の言葉に、教室の一部から「えー」という声が上がる。
……良かった。出してないの、まだ、私だけじゃない。
そんな風に自分に言い訳をして、私は担任の方を振り返ることもせず、そのまま教室を出た。
「松澤さん」
校門を出て、駅までの道を足早に進んでいると、背後から私を呼ぶ声がした。
私は足を止める。はああ、と大きく息をついた。
その声から……いや、纏う気配から。誰が私を追ってきたのかはすぐにわかった。
「……何の用」
くるりと振り返ると、宇宙を溶かした色の瞳が目に入る。やはり、そこにいたのは"星野叶多"だった。