例えば星をつかめるとして
先ほど星野に自分がきちんと人間として馴染めているか聞かれた時に、私は肯定したけれど。それは星野に知識があるから見かけだけはそう見えるだけで、実際は人間には程遠いと思う。
私の記憶を丸々コピーしているというならわかるけれど、知識だけ読み取った、というシステムも、よくよく考えてみれば不思議だ。
そのくせ学生服や、電車に乗るための定期などはきちんと持っているのである。一体どういうことなのだろう。
さらに不思議な点を挙げるなら、電磁波の発信源のようなものであろう星野が乗っているのにも関わらず止まらない電車だ。計器の乱れはどこに行った。
いやそもそもだ。たった一滴の血でどうやって肉体を作ると言うのだ。質量保存の法則を軽く超越していないか。
はああ、と、大きくため息をつく。山のような疑問を、けれど私は考えることを辞めた。きりがないと言うものだ。半ば、諦めに近くもあるけれど。
当の星野はというと、窓際から動かずに流れていく景色を眺めていた。
電車から見える景色なんて、面白くも何ともないのに。洗練されてもいない中途半端な都会のビルは一様に薄汚れていて、空気も空も澱んでいる。そこにいる人だって、そんな薄汚れた街の部品のようなものだ。背中を丸めて足早に通り過ぎて、心を擦り切らせていく。