例えば星をつかめるとして
* *
「君の家はどの辺りなの?」
最寄り駅を降りて歩いていると、私の後ろをひょこひょこと着いてくる星野が尋ねてくる。
「そんなに遠くないよ。あと10分くらい歩いたら着く」
「ふうん」
そう、ごく自然に言葉を交わしてから、私はふと考える。
──何気なく一緒に帰ってるけど、星野はどこへ向かっているんだ? いやそもそも、星野に家はあるのか?
ほんの少し浮かんだ疑問は、けれど一瞬でむくむくと成長を始める。私は足を止めた。
「ん? ここ? 随分近いね?」
首を傾げて不思議そうにそう言う星野を、勢いよく振り返る。
なんて脳天気な声だ。もしかしたら、いやもしかしなくても、何も考えずに私に着いてきたのではないだろうか。
「……ねえ、さっき確認しなかったけど、星野どこに行くつもりなの?」
「え?」
きょとん、という顔の星野は、恐れていた言葉を口にした。
「君の家……だよね?」
「送ってくれるってこと? それは有難いんだけどそうじゃなくて、あんたはどこに帰るつもりなの?」
「え? 君の家じゃだめなの?」
「…………」
私は沈黙する。思わず頭を抱えたくなった。
まずい。まずいまずい完璧にまずい。最初に確認しなかった私の落ち度だった。全部わかってるように帰る帰る言ってたから安心してたけどこいつはわかってないんだった。どうしよう、本気で私の家に帰るつもりだぞこいつ。