例えば星をつかめるとして
「ということは、これは空腹? これが、お腹がすいたという感覚なの?」

「そういうこと! どうしよう、何か食べるものあったかな……」

がさごそと鞄を漁るけれど、普段お菓子を持ち歩く習慣もないのでそんなものは見当たらない。

「仕方ない、とりあえず私の家まで行くからもう少し歩いて!」

ぐううう。鳴り止まない空腹の音が耳に痛くて、私はそう指示を出す。私の鞄に食べ物は入っていないのだから、背に腹は変えられない。

ところが、私が歩き出してすぐに、悲壮な星野の声が響く。

「松澤さんどうしよう、今度は手足から力が抜けてきた……」

「え!? 食べてなさすぎじゃない……!?」

驚いて星野を振り返ると、彼の足元は言葉通りふらふらしていた。『おなかがすいてちからがでない』とかいうやつだな!? なんて現実逃避じみたことを思いついてる場合じゃなかった。どうしよう、星野を背負ってうちまで帰れるだろうか……いや無理だな。どうしよう。

「松澤さん……僕が死んだら代わりに欠片を集めて山に埋めてね……」

「死なないから! 人間は空腹じゃ二日くらいなら死なないから!」

すっかりへろへろの星野を叱咤激励につつ、途方に暮れる。食べ物を調達するにしても、この状態の星野を放置するには気が引ける。

その時のことだった。


「おや、叶多、おかえりなさい。澄ちゃんも一緒なんだね」


「……え?」

聞き慣れない声が、私と、星野に降りかかる。

弾かれたようにそちらを見ると、優しい表情のおばあさんが、こちらを見て微笑んでいた。
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