例えば星をつかめるとして
──先ほど、道路で星野が空腹で倒れかけていた時。声をかけてきたおばあさんは、何の躊躇もなく私たち二人を家にあげた。私たちはこのおばあさんの家の前で立ち往生していたらしい。
腹を空かせた可哀想な高校生がいたから見ず知らずだけれど声をかけた、というにはあまりにも親しみの篭ったその態度は、まるで家族に向けるかのようなもので。はじめにかけられた『おかえり』という言葉も、同じ街に住んでいるくらいの理由であそこまで自然にかけられるものではない。
それに、星野だけでなく私のことも知っているようだったけれど、私はこのおばあさんを知らない。違和感をあげたらきりがないのだ。
「もしかして、学校で起こったのと同じ……かな」
「私も、そう考えてた」
星野の言葉に頷く。まるで星野叶多という人間がずっとそこに存在していたようなこの流れに対する違和感は、ひどく覚えがあった。
学校で、星野は生徒になった。だとしたら、ここでは?
「もしかしたら、だけど、星野はこの家の孫か親戚の子供か何かだってことになってるんじゃないかな」
私は少し考えて、話し始める。
この家には子供は住んでいないように見えた。食器棚に湯のみが二つ並んでいるのを見ると、先ほどのおばあさんと、恐らくはその旦那さんの二人暮らしなのだろう。子供が住んでいるような形跡はない。
けれどおばあさんは、星野を見ておかえりなさい、と言って、自然に家の中へあげた。それは家族に対する自然な行為のように思えた。
とすると、この家で星野に与えられた立ち位置は、孫や親戚なのではないだろうか。