例えば星をつかめるとして
「ちょっと待って、やっぱり全然納得出来ないから梯子を……」

「松澤さん、おいで」

全くこちらの話を聞かない星野は、一方的にこちらに手を差しのべる。

「いやだから、梯子使おうってば。落とさないから戻っといでって」

私は逆に、万が一星野が落ちても引っ張れるようにとその手を掴んで……その刹那、胃の底が浮くような不思議な浮遊感に見舞われる。

「大丈夫だから」

顔は見えないのだけど、多分、今すごく楽しそうに笑っているんだろうな、と思うような声が響いた瞬間、あっという間に私は屋根の上にいた。

「……!?」

何が、起こったのか。驚きすぎて声も出せないまま、私を引っ張った……のかはわからないけど、とりあえず連れてきた星野を見やる。

「ね? 大丈夫だったでしょ?」

さっき想像した通りの顔で、星野は微笑んでいる。その背景は、いかにもと言うような瓦屋根と青空だ。

当たり前だけど、私が乗っている場所も斜めになっている。先ほどまでいた窓は見えるけど、星野はどうやってここから落ちずに手を差し伸べたんだ?

「ほら、松澤さんこれ」

混乱する私に、星野は傍らにある石ころのようなものを指し示す。景色には不似合いなものだけど、その柔く光る銀色には見覚えがあった。
< 52 / 211 >

この作品をシェア

pagetop