例えば星をつかめるとして
* *
終時を知らせるチャイムの音が鳴り響く。教室中がにわかに騒然として、あちこちで鞄を取り出して帰宅の準備が始まった。
「今日も長かったー! 澄ちゃんも、ようやく日直から解放?」
大きく伸びをした真理が、こちらを振り向いてそう尋ねてくる。私は首を縦に振った。
「うん、あと日誌まとめたら終わり」
「おお! お疲れ様!」
休み時間に色々やってたせいでその日誌の残りもそんなにすぐ終わるものではないんだけど、表情豊かな真理の様子にふっと心を緩ませる。
その時、教室のガラリと扉が開いて、吉村が入ってきた。
「松澤、ちょっといいか」
そうして、すぐに私を呼んだ。
「え? また日直の仕事?」
隣で驚いた様子の声をあげる真理を横目に、私は静かに立ち上がる。
「なんですか」
「悪いな、ちょっとこっち来てくれ」
「……はい」
日直の仕事では、なさそう。そんな予感を抱きながら、私はまっすぐ教卓の方へと向かう。
いつも声が大きいことで有名な担任は、私がそばに行くと、普段より落としたトーンで切り出した。
「松澤、お前進路希望票出してないだろう」
「……っ」
息を、詰まらせた。
──忘れては、いなかった。