例えば星をつかめるとして
帰りのHRが始まる時刻は、まだだ。教室中はまだ騒然としていて、先生の言葉を、私を、雑音の中に隠す。

「お前が提出物出さないの珍しいな。失くしたか? 新しいの刷ってきたから、これに書いて後で日誌と一緒に出しに来てくれ」

先生は、運んできたファイルから紙を一枚取り出して、私に差し出した。

「まあ悩むのもわかるが、大体で良いから、な」

笑顔が、言葉が、質量を伴って私にのしかかるような、そんな錯覚を覚える。

B5サイズの紙切れを受け取る、ただそれだけのことに気が引けて、指が躊躇った。

「じゃ、よろしくな」

……けれど先生はそんな私の手に紙を押し付ける。気付いたら、私の手はそれをしっかりと受け取っていた。

「……はい。」

こぼれ落ちた声は、自分でも驚いてしまうくらい、何の色も含まない平淡なものだった。






「松澤さん、日誌任せっきりでごめんね」

背後からかけられた声に、ふと我に返った。

日誌を開いてシャーペンを握りしめたまま、ぼうっとしていたみたいだった。気付いたら教室からは大分人も減り、吉村の姿もない。中途半端な場所に風を送る扇風機の音が響いていた。

「……あ、うん」

声をかけてきた星野に曖昧に返事をして、私は日誌を書く手を再開させる。
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