例えば星をつかめるとして

星見峠、というのは地元の人のこの山の愛称である。頂上から星がよく見えるから、というなんとも安直なネーミングだと思う。隕石も落ちたくらいだしそのうち"星降り峠"とでも改名されるかもしれない。

運賃を払ってバスを降りると、むわりとした熱気に迎えられた。梅雨が明けて、そろそろ夏の足音が聞こえてきている。学校の冷房対策にと長袖を着てきたことを後悔しながら、カーディガンを脱いで袖を捲った。

頂上まで歩こうとするとここから結構かかるけれど、墜落現場は中腹と聞いている。ローファーを履いているけれど、迷わず歩いていくことにした。道はマスコミやらの車が行き交っているのですぐにわかった。

やはりというか、人が多い。地元の人らしき集団も見える。知り合いがいないことにほっとしながら私は足を進めた。ばれたら面倒なことになる。

そうして舗装された山道を進むこと、15分くらいだろうか。アスファルトの上に、不自然なくらいの量の土が混ざり始めた。

それも、表面の土砂が風がなんかで飛んできたのとは違う、まるで地中深くから掘り返されたような、黒々として水分を含んだ土が、道路の上に点々とあるのだ。

いよいよ隕石か、と思い始めた頃、少し先に人垣が見えた。どうやらあそこらしい。
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