例えば星をつかめるとして

私は、確認のために足元を見て、ぎょっとした。

「ちょ、浮いてる……!?」

思わず叫び声をあげる。前輪が、明らかに地面から浮いていたのだ。

後ろで星野が笑ったのを気配で感じる。もしかする余地もなく、明らかに星野の仕業だ。

「松澤さん、空、飛んでみない?」

「は!?」

全く悪びれた様子もなくそう提案する星野に、叫び声で返事をする。彼はまた、楽しそうに笑った。

「大丈夫。怖くないよ」

そう話してるうちに、ついに後輪も浮き上がったようで、地面から伝わる振動が無くなる。

ゆっくりゆっくり、もうとっくに坂は下りになっているのに、さらに視界が高くなっていく。

「……!!」

だんだん街並みが遠ざかって、空にどんどん近づいていく。

「ほら、風がすごく気持ちいい」

声すらも出せない私とは裏腹に、後ろから聞こえてくる星野の声は非常に楽しげだ。
< 80 / 211 >

この作品をシェア

pagetop