例えば星をつかめるとして
重なっていた視線が、外れる。星野はまた、空を見上げていた。もしかして、故郷の方向でも見ているのだろうか?
先ほど聞いたことにもやもやしたものを抱えたまま、私も空を見る。広がる夜空は、嫌になってしまうくらいに大きかった。
星野が地球を出て、帰る場所はどの辺りなのだろう。ここから、見えるのだろうか。
ほしのかなた、と自分につけるくらいだから、とても遠い場所なのだろうか。
「彼方……」
ぽつりと呟く。彼方、とはどこだろう。
「なあに?」
近い場所からの返事に、名前を呼んでいたみたいだったかとはっとした。そんなつもりは、なかったのだけど。
「ああ、そういうつもりじゃなくて、」
「初めて名前、呼んでくれたよね? 嬉しいな。僕もそうしようかな、……澄佳」
「……っ」
さらり、と、星野の声で紡がれた自分の名前に、思わず心臓が跳ねた。
「澄佳。……素敵な名前だよね。僕、好きだよ、澄佳」
「ちょ……」
名前のことだ、とわかっているのに、思わず言葉に詰まる。動揺していると、ばれてしまいそうなのに。
星野はどこか嬉しそうに、澄佳、澄佳と私の名前を連呼する。なんだかくすぐったくて、その刹那、私は気付いた。
──そうか、私、私は、星野がこの星からいなくなることを、消えてしまうことを、寂しいと、悲しいと、思っているんだ。
そう遠くない未来に、心がきゅっと苦しくなる。それでも、手の中に感じる温度に少しだけほっとした。
大丈夫、星野は掴めない光ではない。ここにちゃんと、いる。