凪いだ海のように
「それならいいんだけど……波音はそれでいいの?」


カノンちゃんの言い分は納得できた。


でも、波音が納得できなきゃ意味がないし。


たずねると、波音はしばし悩んで。


「お言葉に甘えて先生に送ってもらうことにする。だから、さくらは啓太君と帰っていいよ?」


ほら、と背中を押してくれる。


あたしもお言葉に甘えちゃうよ?


「ありがとう波音。カノンちゃんも」


「お疲れさまっした」


けーちゃんの隣に立って手を振る。


体育会系のけーちゃんは、水泳部だけど先輩である波音にきっちり頭を下げて挨拶した。


上下関係が厳しいんだ、体育会系は。


波音もそれを分かっているので、よくできましたというように、さようならと返した。


「カノンちゃん、送り狼にならないでよ!」


「お前……つくづく俺を教師と思ってないだろう……。気をつけて帰れよ」


ばいばーい、と手を振って美術室をあとにする間際に、ちらりと見えた波音の顔。


それは、さっき見た綺麗な笑顔で。


もしかして波音は……。


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