凪いだ海のように
波音の親友、五十嵐波糸。


三年前の夏に海で死んだ同級生。


その事実を知ったときはとても信じられなかったけど、波糸くんは自分から海に入っていったらしいの。


毎日一緒に海に行っていた波音はさぞやショックを受けたんだろうと思ってた。


でも、意外に取り乱したりはしてなかったな。


お葬式でも泣いたりせずに、いたって落ち着いてお焼香を済ませて、波糸くんのご両親に挨拶をしてた。


それを見た友達は、冷たい女だなんていった。


あたしは必死で否定したけど、その甲斐むなしくいろんな噂が波音の周りで飛び交った。


でも、波音は普通に生活をしてた。


海にまったく寄り付かなくなったことを除いては。


波糸くんがいなくなった衝撃が強すぎて、波音は泣けなかったんじゃないかな。


傍目にはなにも感じていないように見えるけど、本当は。


誰も見てないところで泣いてたんじゃないのかな……。


ただ何事もなく日常を過ごしていた波音。その普通さが逆に、どことなくおかしく見えたの。


感情をなにかひとつ、波糸くんが死んだ日に残してきたようで。


体だけ残して、心が行方不明になったみたいに。


それほど、波糸くんのことが忘れられないのではないかと思っていたの。



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