凪いだ海のように
けれどそんな波音が、最近変わった。


「だって、なんだか変わったよ、波音。表情に血が通ってきたっていうか……」


感じさせない程度に、波音は他人と距離を置いてる。


笑ったり怒ったり、人としての感情表現をそつなくしているように見えて、心の底からの表情は決して見せたりしない。


まるで凪いだ海のように、静かにそこにたゆたっていたようだった。


そんな波音の表情が、近頃少し変わった。


心のままに表情を作るようになったのか、とっても自然に見えるようになったもん。


そのことに気付けたのは、あたしが絵描きだったから、なのかな。


人物を書くときは、その内面までを見透かすまで見る。


本当の表情を見取ってこそ、本物の絵描きだから。


「……さくらも絵を描くだけあるね」


相変わらず窓を見続ける波音。


視線を隠して、表情を見せてくれない。


今の言葉は肯定と受け取っていいのか悩んだけど、気がついちゃった。


さくらも、ってことは、もう一人いるってことだよね。


あたしに思い当たる、もう一人の絵描き。あたしよりももっとずっとずぅっと絵が巧くって、人の心の表情を読み取れる、美術教師。


「カノンちゃんに話したこと……怒ってる?」
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