凪いだ海のように
ただ首を振るだけのあたしに、波音は言葉を続ける。


「さくらは、いい絵描きになるよ。だって……分かっちゃったもんね? あたしに好きな人がいるって」


「……えっ?!」


ちょっとちょっと!


ホントに好きな人がいるの、波音!?


「誰?! 誰なの?!」


もうデッサンもそっちのけで、身を乗り出して聞く。


だって、ホントにいるとは思わなかったんだもん!


期待を込めて答えを待つと。


「内緒」


と、にっこり笑顔付のつれない返答。


「ええー?! 教えてよー! 酷いよ! そこまでいっておいてさぁ!」


「だーめ。いくらさくらにでもこればっかりは教えられませーん」


波音の肩をつかんで揺さぶっても、跪いてお願いしても、教えてくれない。
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