凪いだ海のように
「じゃあ……誰?」


「だから、秘密だって。……いつか必ずいうから、それまでのおたのしみ」


きっと、さくらにはその前に分かっちゃうんだろうけどね?


そういって困ったように笑う波音は、本当に綺麗で。


ちゃんと心が戻ってきたんだって、確信できた。


「ちゃんと、教えてよね?」


「その時になったらね?」


ふたりで顔見合わせて笑いあっていると、美術室の扉が開かれた。


現れたのは。


「まーだ残ってたのか。もう暗いぞ、外」


「カノンちゃん」


臨時美術教師のカノンちゃんだった。


絵の具だらけの白衣はもう着てなくて、ショルダーバッグを斜めがけしてる。


もう帰り支度してるってことは。


「わあ、もうこんな時間?」


時計の針は、もう七時を刺していた。


「そうだぞ。それからカノンちゃんいうな……って聞く奴じゃないよなー……。まあいい。お前らが帰らないと俺も帰れないだろ。それにほら、峰にお迎えだぞ」
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