私は暇じゃない




 穴場だからといって、客がいないわけではない。このただならぬ雰囲気に、いわゆる男女の修羅場だとわかるはずだ。
 視線が刺さるのに堪えられない智治が落ち着かない様子のまま、相手の話に合わせ腹立つ言葉を吐き出した。


 予想通りである。

 私はこの店で何も喚くことはしない。そして青ざめている友人と思っていた洋子のことも、もうどうでもいい。


 私はそっと「そうなんだ」と笑いながらまず、左を。洋子のパーマあてたばかりの髪と、ピアスを見る。で、今度は右を。好きだった顔だったが、今はくそやろうにしか見えない。


 少し前、智治の家にいったときのこと。

 ベッドの近くに、見慣れないものが落ちていた。それは長い。
 拾ってみると、それはピアスだった。智治はピアスをつけない。私もピアスはあけていないのでつけない。なら…?


 そこでやっぱり、の思ったのだ。
 洋子と智治の関係を私は密かに疑っていた。男女の間にある、何ともいえない雰囲気というのは、わかる。あっちは隠しているつもりなのね、と私も指摘せずまた隠した。

 友達の彼氏なら、会うことはある。だから最初は別になんとも思ってなかったが、いつからかあれ?と思うようになった。嫉妬だろうか。確かに嫉妬なのかもしれないが、違う。何ともいえないあの、独特な雰囲気に予感がした。嫌な予感が。


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