立志伝
ここは院のとある一室。
「架藍様。」
「瘡季か、何だ?」
「葛螺様とはお会いになられましたか?」
「ああ、昨晩お会いしてきた所だ。私の身を案じていらした…。兄上は幼き頃と何ら変わらず清い方だ。」
「清い方、ですか?」
「そう、清く聡い方だ。しかしその清さが時には仇となる……。」
「それはまた酷な事をおっしゃる。」
「真の事だ。現に血を分けた弟のこの様にも気付かなぬではないか。」
「葛螺様にとってあなたは唯一無二の存在なのです。ましてや幼少の頃よりお二人で過ごされてきたのですから信頼を寄せていらっしゃるのも無理はないでしょう。」
「信頼か…。」
「はい。またお会いしてはいかがです?」
「兄弟の仲を深めにでも行けと言うのか?」
「それも一興かと。」
「一興とは…。そなたも十分酷な事み申しているではないか。」
「これは口が過ぎました。申し訳ございません。」
「よい。まだしばし日を空ける。」
「作用でございますか。それでは今宵も夜が更けました故、私は失礼致します。」
「ああ。」
架藍の返事を聞くと瘡季はその場を後にした。
「兄上…。今宵は月がよく見えますよ。」