立志伝
〜縁の章〜
「父上〜!」
「お待ちなさい玖葛、そのように急いでは転びますよ。」
「母上もお急ぎ下さい。」
「玖葛は父上が好きなのですね。」
「はい!」
そう答えた玖葛を浮瀬は愛おしそうに見ると王の待つ間へと再び足を進めた。
「父上!」
「待っていたぞ、玖葛。」
「本当ですか?」
「ああ、本当だとも。」
玖葛がこの世に生を受け五年の時が経過していた。
「今日は母上もいらっしゃるのですよ。」
「浮瀬が?」
「はい。私が無理を言ったも同然なのですが…。」
「浮瀬はそれを気にするような事はないだろう。」
「そうですよ玖葛。」
奥の間にそう言いながら浮瀬がはいってくる。
「母上!」
「何です?」
「今日は何をしてあそびましょうか?」
「そうですね、では楽をしましょうか?父上にお聞かせして差し上げてはどうでしょう。」
「玖葛が楽を?」
葛螺が浮瀬に驚いた様に尋ねる。
「はい。大人たちが奏でるのを見てやってみたいと。」
「そうか、それはぜひ聞きたいものだな。」
「ではこの玖葛、父上と母上のために吹きます。」
そう言うと玖葛は横笛を構え吹き始めた。