立志伝
「本当なのか?」
「ええ、」
「では父上が来られるまでここで待つ。」
遡ること半刻前―――
「玖葛様、」
「ん、何だ?」
「今日は何をしましょうか?」
「そうだな…父上に会いたい。」
「葛螺様ならば今日は明日の祭事の為に公務は昼で終わりですよ。」
「!本当か?」
「ええ、お待ちしてはいかがですか?」
――――という言葉が交わされていた。
玖葛は世話役の男の言葉を聞きここで待つ事にしたのだった。
「―――という事でよろしいですか?」
「ああ、構わない。」
「分かりました。明日は何事も無く行くといいですね。」
「そうだな。」
明日の祭事の話をしながら葛螺と高杯は渡殿を歩いていた――――
「…おや?」
「どうした?」
「いえ‥、あそこにいる方が玖葛様に見えたのですが…。」
「玖葛?」
「ええ、向こうに。」
そう言って高杯はその視線の先を指さした。
指が示す先を見る葛螺の目が二つの人影を認めた。
……一つは自分もよく知る官吏―――玖葛の世話役を任せられていた、榛という男だった。
そしてもう一つは、玖葛その人だった。