立志伝
その頃玖葛は父がすぐ傍まで来ている事にまだ気付いていなかった。
…そして―――
「榛、それに玖葛。」
「御公務ご苦労様です。」
そう言い榛は静かに頭を下げる。
「ああ、それよりもなぜ玖葛がここに?」
「はい、玖葛様が王に会いたいと。」
「…そうか。」
葛螺は微笑を浮かべ玖葛を見た。
「それでは私はこれにて。」
再び頭を下げ榛はその場を後にした。
「玖葛。」
「…はい。」
「どうして元気がないんだ?」
「始めは父上にお会い出来る事しか考えなかったのですが、今思えば父上は御公務でお疲れのはず…。加えて明日は祭事もあるというのに私は我が儘を言ってしまいました……。」
「…クス―――。」
「父上‥?」
「お前は自分が我が儘だと思っているのか?」
「はい…。」
「ならそれは間違いだな。」
「間違い?」
「ああ、私はお前が私に会うために待っていたのを疎ましくは思わないし、本来子供というのは我が儘を言う位の方が可愛いものだ。だからそんなにしょげた顔をするな。」
「はい、父上。」
もう玖葛の顔にはいつもの笑みが戻っていた。
「明日は祭事だ。お前の笛をまた聞かせておくれ。」
「はい!」
年に一度の祭事は明日に迫っていた――――