立志伝
〜宴の章〜
王侯貴族が年に一度都に集まり、楽や舞踊に酔いしれ話に華を咲かせる―――
その日が巡ってきたのだ。
―――朱の日
本来の名ではないが人々はそう呼んだ。
色とりどりの装束―
― ほのかに香る白粉
まだ主の現れない楽器―
そのどれもが祭事の華やかさを彷彿とさせた。
その頃玖葛は…
「ついにこの日が来ましたね、玖葛様。」
「ああ、私の笛を父上に聞いてもらうのだ。」
「きっと楽しみにしていらっしゃいますよ。そろそろ始まります、参りましょう。」
「そうだな。」
この国には習わしがあった
―――王族直系の子は七歳の年に行われる祭事で楽を披露する
そしてそれがこれから始まろうとしている。
玖葛は庭園に面した渡殿を歩いていた。
(人の声がここまで聞こえる。)
今日は特別な日―加えて王の一人息子が楽を披露するのだ。
人々は幼い演者を心待ちにしていた――